斎屋《じょさいや》がくる、甘酒売りがくる。虫売りがくる――定斎屋と甘酒やだけが真夏になればなるほど日中炎天をお練りでゆくが、その他は小かげをえらんで荷をおろす。丁度その家の隣りが堀越角次郎という、唐物問屋《とうぶつどんや》の荷蔵の裏になって、ずっと高い蔵つづきの日かげなので、稗蒔屋はのどかになたまめ煙管《キセル》をくわえ、風鈴屋はチロリン、チロリンと微風《そよかぜ》に客をよばせている。そんな時あたしのおたばこぼんが出来上ると、中に赤や青や金色の小さな瓢箪《ひょうたん》か、役者の写真の浮いている水玉のかんざしを、そこの姉妹が買ってさしてくれたり、腰にギヤマンの瓢箪をさげさせたりした。私のために大きな稗蒔きの鉢をかって、柴橋《しばばし》をかけさせたり、白鷺《しらさぎ》をおかせたり釣師の人形を水ぎわにおくために金魚も入れたり、白帆船をうかせたりしてくれた。
 けれどあんぽんたんには親しめない家だった。店口より上へ、あがった事がなかったので、いつの間にか私の妹の、人なつこいお丸ちゃんが、代りに抱いたり、かかえられたりするようになった。
 その家の右隣りの古板塀が、村上という漢方医者だった。その
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