日中か夕方に通った。蝙蝠《こうもり》が飛び出して、あっちこっちで長い竹棹《ものほしざお》を持ちだして騒ぐ黄昏《たそがれ》どきに、とぼとぼと、汚れた白木綿に鼠の描いてある長い旗を担《か》ついで、白い脚絆、菅笠《すげがさ》をかぶってゆく老人の姿は妙に陰気くさくいやだった。日中《ひなか》でも、
――いたずらものはいないかな……
という声をきくと、鼠でなくても、子供でも首をひっこめた。
この家の女姉妹は、なんとなく女子供がいじって見たかったと見えて、私の髪を結ばせてくれといった。宅《うち》ではあんまりよろこばなかったが、彼女たちは私の短かい毛をひっぱって、練油《ねりあぶら》と色元結でくくりつけるのを悦《よろこ》んだ――あたしは店さきに腰をかけて、足をブランブランさせたり、片っぽ飛ばした下駄を足さぐりしたりして、首だけ凝《じっ》と据えている。
青葉がもめ[#「もめ」に傍点]て、風がすっと通ってゆき、うすい埃《ほこ》りがたつと、しんとした正午近くは、「稗蒔《ひえま》き」が来る。苗売りが来る、金魚やがくる、風鈴やが来る。ほおずき売りが来る。汗ばんで来たなと思うころには、カタカタと音をさせて、定
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