の障子がすぐはまっている店口《みせぐち》に腰をかけて、まばらに通る往来《ゆきき》の人を眺めていた。その家は一間|巾《はば》位の中庭があったので、天窓《ひきまど》からのような光線が上から投げかけられ、そこに植《うわ》った植木だけが青々と光っていて、かえって店の中の方が薄っ暗かった。天井から番傘がつるしてあるだけを覚えている。眉毛《まゆげ》をとった中年増《ちゅうどしま》の女房《おかみ》さんと、その妹だという女《ひと》と、妹の方の子らしい、青い痩《や》せた小さな男の子とがいた。
 学校の行きかえりにその家の前を通ると、白い障子を細目にあけて外を覗《のぞ》いているものがあったが、声をかけられたのはその近くだった。はじめは何処《どこ》のお子さんと訊《き》いたりして、姉妹で私の肩上げをつまんだり袂《たもと》の振りを揃えて見たりしていたが、段々に馴染《なじ》んで先方《むこう》でも大っぴらに表の障子を明け開《ひろ》げて、店口に座って私の帰りを待っていてくれるようになった。山吹きの枝のシンを巧く長くだしてくれて、根がけにしてくれたのもその人たちだった。
 鼠《ねずみ》とり薬を売る「石見《いわみ》銀山」は
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