るのかと思い、死《しに》もの狂いで噛《か》みついたりひっかいたのであった。
騒ぎのあった翌日、その狼藉《ろうぜき》者一党が揃って詑《わ》びにきたが、その時、父はすこし寒気《さむけ》がするといっていたが、左の手の甲が紫色に腫《は》れてるだけだった。対手《あいて》の幾人かは頭に鉢巻したり、腕を結わえていたりした。そしていった。
「ばかな真似をしてしまって、あれが刀だったら僕の頭は真二ツに割られているところだ。とても歩けはしないが、ぜひ詑《わ》びにゆけと皆に抱えてこられた。眼が廻るほどピンピンする。」
「一度診察させるのだ、何しろ鉄扇だから、どこか裂けるか、折れるかしてると思う。」
「ばか言え、鉄扇なんて、そんなおだやかでないものを持ってゆくものか、弁論の自由を尊重しながら、そんな野蛮な――でも、じゃないよ、見ろ、この扇だ。」
みんな変な顔をしていた。元気な父は村上さんに膏薬を貼らせながら一人の手を見ていった。
「や、その爪か! 汚ねえのだなあ。」
対手の人も、鷹《たか》の爪のようにのびて、しかも真黒な爪|垢《あか》がたまっている自分の五つの爪を眺めた。他の者たちも呆《あき》れた。だが
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