と娘とが、私の祖母と母の前に並んで座っていた。あたしもそばへ行って座った。丁度父が外《おもて》から帰って来て客のまたせてある室《へや》へゆきがけに通ると、母が縋《すが》るように言った。
「おあさが小蒔屋《こまきや》へ行くことにきまりまして――」
「そうか、金助の家《うち》か?」
「さようでございます、清元《きよもと》が大層気に入りまして――踊りも質《たち》がいいと仰《おっ》しゃってくださいますので――」
 藤木の細君がいった。
 小蒔屋――柳橋《やなぎばし》の芸妓屋の名だった。家へも来るが、両国広小路――電車道路となったが――の、両国橋にむかって右側に、「芭蕉《ばしょう》」という大きな薬種屋があって、芭蕉の葉が一葉大きく青く彫刻した看板が棟にあげてある店だった。その薬種屋は「正久の一」という名人の鍼灸医《はりい》の家で広い店二階に一ぱい患者が詰めかけていた。正久さんは盲目だが上品な老人で、供《とも》がついて祖母のために療治に来てくれたが、なにしろ患者が多いので祖母の方から通う日も多かった。そこの待合せは所がら芸妓やや料理店《おちゃや》の人が多く、藤木夫婦の望みと抱妓《かかえ》をほしがっ
前へ 次へ
全19ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング