チンコッきり
長谷川時雨

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)出車《だし》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)蝶々|髷《まげ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「ふさぎ」に傍点]
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 アンポンタンはぼんやりと人の顔を眺める癖があったので、
「いやだねおやっちゃん、私の顔に出車《だし》でも通るのかね。」
 さすがの藤木さんもテレて、その頃の月並《つきなみ》な警句をいった。
 小伝馬町の牢屋の原を廻《めぐ》る四角四面の町々に、アンポンタンの友達の分譜《ぶんぷ》があり、学んだ学校があり、長唄稽古所があり、親の知合《しりあい》の家もあったから、私がポカンと立止って眺めているなにかしらが多くあった。もともと牢屋の原の居廻りは、日本橋という主都の中央でありながら、今でいえば新開《しんかい》の町だけに、神田区上町との間に流れる溝《どぶ》川の河岸についた、もとの大牢の裏手の方は淋《さび》しいパラッとした町で、呆《ほう》けたような空気だった。そのかわりに今いえば日本橋区内の何処《どこ》でもに見られない新職業があった。古
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