ている小蒔屋との交渉が、おもいがけなく私の祖母から出来上ってしまったのだった。
おあさのために御馳走がならべられて、口々に褒《ほ》めた。
「おあさは孝行ものだ、親孝行だ。」
父までが藤木さんに杯口《ちょく》を与えながらいった。
「おれの家《うち》でも女の子が多いから、芸妓やをはじめると資金《もとで》入《い》らずだが――」
十《とお》ばかりの従姉《いとこ》と、私はだんまりで、二人ともこぼれない涙に瞳《め》が光っていた。おなじようにムンヅリしていたが、子供心にも思うことは違っていたのかもしれない。私は子供心には言いあらわせない反抗心がグイグイと胸をつきあげていた。その時、父も厭《いや》だった、褒めそやす母は一層憎かった。ふだんは好きな祖母も、そんな世話をしたかと思うと悲しかった。もとより、芸妓《げいしゃ》は美しいものとして、その他《ほか》の悪いことは知っていようはずもないのに、なぜだか、なんとも言えない泣きたい思いを堪えていた。
「親孝行なんて、親孝行なんて――」
なあんだ――ただそう叫びたかった。みんなにむしゃぶりつきたい、わけのわからないむしゃくしゃだった。
「そんな親孝行なん
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