え、飴《あめ》の中からお多福さんが出たよだ――さあさあ、これなる唐茄子から何が出ますか代価《だい》は見てのおもどり――ハッ来た、とくりゃあたいしたものだが、文福茶釜じゃあるめえし、鍋に入れたからって踊りだしゃあしまい。」
藤木さんがそんな戯談《じょうだん》をいった時に、唐茄子の中にははいっていたものがあったのだった。あんまり大きくなるが様子が変だからと、庖丁《ほうちょう》を入れたら小蛇が断《き》れて出た。
幾年か経《た》った。千葉の方にいた私の母の妹が、藤木の家が気楽だからと荷物をおいて宿にしていた。土佐の藩士で造幣局に出て、失職して千葉の監獄の監守になり、後に台湾で骨董《こっとう》商と金貸をした(虎と蛇の薬をもって来た)人の細君だった。――その時分|漸《ようや》く奉還金の残りが公債証書で渡されるとかいって悦びあっていた間柄だった――気むずかしい毒舌家の藤木さんが、一番気のあった女《ひと》だった。極《ご》く早いお茶の水の卒業生だった彼女が学校を出て、大丸横町の岡田学校というのへ月俸金四円也で奉職したのは、私なぞの知らないころだったが、わからずやの私の母は、妹が毎日|袴《はかま》を
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