されると、真白な根のきわにほの赤い皮が、風呂《おゆ》から出た奇麗な人の血色のように鮮かに目立った。ボンヤリ見ている私は手伝いたくてウズウズしている。小僧さんが天秤棒《てんびんぼう》が撓《たわ》むほど、籠《かご》に一ぱいの大きな瓜《うり》を担いで来て、土橋《どばし》をギチギチ急いで渡ってた。
町の子のあたしが、笹舟を流すことを知ったのも、麦笛を吹いたのも、夜蒔《よま》きの瓜の講釈をきいたのも、田圃へどじょう[#「どじょう」に傍点]を突きに行ったのも、根岸の里住居のたまものだった。おばあさんは切れの巾着《きんちゃく》の中味を勘定して、あたしのおやつや好きな塩鮭《しおじゃけ》の一切れを買いにいった。まだ上野山下の青石横町にいる時分に、あたしは雨上《あまあが》りに三枚橋下へ小魚を掬《すく》いにいったり、山内へ椎《しい》の実を拾いにいって、夜になるとおばあさんの不思議な話をききながら煎《い》ってもらって、椎の実の味を知った。秋のはじめになると、
「蓮《はす》の実はいらないか、蓮の実いらないか。」
と短く折った蓮の蕋《しべ》を抱えて、売ってくれる子とも馴染《なじみ》になって、蓮の実の味も知った。
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