母たちは、勝川へ藤木の二女《むすめ》がずっといっているという事はしっていたのだった。
 さすがの花菊も、もうたいへんすたれ果てた年となっていたであろうが、お角力《すもう》は影の形体《かたち》を離れぬように、いつもぴったりと附いていた。御直参《おじきさん》ならずものたちは口が悪いから、宅などへくると、
「お角力はやっぱりいるさ。」
といって、
「あの角力も妙な男だよ。立派な図体《ずうたい》をして、なんでまあああしているのかねえ。まるで権助同様なあつかいで、あのおばさんのことだから、ポンポン言ってらあね。」
「商業でもしてるのかね。」
「どうしまして、台所やせんたくがなかなか忙しいのに、あれで道具運びの荷ごしらえに手がかかりますさ、力があるからお誂《あつら》えむきだが。」
「あの男だって相当な番附位置《ところ》にまではゆけたろうにな。」
「色の白い、体の奇麗な角力取りだったが、何も石川屋が没落したからって、自分も角力を没落しなくったってよさそうなもんだったのに。」
 だが、勝川お蝶さんの一生には、なくてならない人はこのお角力だったのだ。傍《はた》のものは道具はこびにお誂えむきだといったが、
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