お角力にはピッタリはまった役目があったのだ。彼は勇敢に若き日の一生をかけて、その力を、自分の愛するもののためにとっておいたのだともいえる。そしてその最後の日が来た。
天理教の踊りがピッタリ逼塞《ひっそく》してしまうと、勝川おばさんの逼塞も本ものになって、手も足も出なくなってしまった。むかし、大川の河風にふかれて船の上で昼寝をした夢をしのびながら、陋居《ろうきょ》に、お角力の膝《ひざ》を枕《まくら》にして、やさしく撫《な》でられながら彼女の生涯は終った。
あたしの母も、母の姉のお房さんも行った。夜更けて帰って来て、なにしろ家がせまいから、明朝《あした》また早くゆくといってくつろいでいた。その翌日いったらもう死者は家にいなかった。落魄《らくはく》御直参連一党がつらなって帰って来てつぶやいた。
「今度こそ角力が入用な人間だったってことがわかったよ、おばさんの役にたった一番目で、それがおしまいだ。」
「だが秀逸だ、あの男の。」
父が出てゆくとみんな頭を揃えてさげて、
「ありがとうございました。取りかたづけはすみました、角力がひとりで、しょってしまいました。」
「そうか、あの男でも、それだ
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