が嬉しかったのであろう。
だが、そのうちに日清国交破裂となった。清楽なんぞやる奴《やつ》は国賊だとなった。勝川の窓は宵から締めないと石が降り込んだ。で、いつの間にか窓が閉って家の中の人も逐天《ちくてん》してしまった。
それから幾年、また勝川おばさんの所在不明。
大本教《おおもときょう》が盛りだした時以上に天理教流行の時があった。一体下町で、いつも景気のよい宗旨は日蓮宗だが、時々新らしい迷信が捲起《まきおこ》ることがある。ある時、葛籠屋《つづらや》の店蔵に荒莚《あらむしろ》を敷いた段をつくって、段上に丸鏡と榊《さかき》と燈明をおき神縄《しめ》を張り、白衣の男が無中になって怒鳴っていた。それを取りまいた一群が、トウカミエミカミ、トウカミエミカミというふうに喚《わ》めいていた、×××教というので堀越三升《ほりこしさんしょう》でさえ――九代目団十郎――権少都《ごんのしょうづ》の位になって信心してるのだからたいしたものでさという勢いだった。そのあとで狐狗狸《こっくり》さんが来た。これはむやみと景気がよくて大衆的大人気で、いたるところ向う鉢巻三味線入りで、車座になって、お飯櫃《はち》のふたを
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