げのだとか、種々な鹿《か》の子《こ》絞りにも名のあるのをあたしは知った。祖母はその二、三種を、手ごろな有りぎれのまま、ザクリと手にさげて帰る――あたしたちの目はかがやいたものである。その裂《き》れ地が、もらった嬢さんたちの結綿島田《ゆいわたしまだ》にもかけられ、あたしたちの着物にもじゅばんの襟にもかけられた。帯にもなった。
 ある日、大丸に大変な人だかりがした。西洋人《とうじん》が買物に来ているのだという。いってみると、太い赤い頸《くびすじ》に金茶色の毛がモジャモジャしている、眼鏡をかけた男と、キチキチした、黒っぽく光る上衣《うわぎ》に、腰の方だけ沢山ひだを重ねて広がった服をきている、意地のわるそうに尖《と》がった、茶色の眼の、狐《きつね》のような女が、ボンネットをかぶって、見物にかけつけたものを睨《ね》めかえしていた。小さくて痩《や》せている犬をつれていた。子供の目にも、今思いだしても、決して上品なよい人柄とは思えなかったので、ものめずらしくはあったが、なんとなくこの西洋人《とうじん》を軽蔑した。その時分、黒いやせた、茶色の斑点が額にコブのようにある洋犬《いぬ》をカメと呼んだ。だが、
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