めんの小ぶとんに、緋ぢりめんの紐《ひも》のついたのを背にあてて、紐を胸でむすんでさげていた。その女《ひと》が狆《ちん》を抱いて、夕方遊びに出るのを見るのがあたしは大好きだった。
大丸の小僧はみんな馬鹿なのかと思ったことがある。大きな姿《なり》をして、頭髪をおかっぱのようにして、中には胸にあぶらや[#「あぶらや」に傍点]のような茶色の切れをかけていた――お茶盆をもって、アーアーと節をつけて、店のはなっさきを行ったり来たりしていたからだ。アーアーというのは、おはいりという事なのだといったが、眺めていると好い気持ちではなかった。
大丸と向いあった角に仏具屋があって、その横に交番があったが、ある日引っこしをした。人夫が交番へ丸太ン棒を通して担いでいってしまったので吃驚《びっくり》した。でも交番がとれて四ツ角が広くなったのは具合がよかった。何事もみんな物珍らしいことはこの四ツ角に立って見物する最上の場所だったから――
住吉踊《すみよしおどり》の一隊が来てかっぽれを踊ると、大きな渦になって見物がとりまいた。梅坊主《うめぼうず》の連中は夕方にやってくるのでよく人が寄った。お正月の出初《でぞめ》
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