で、女中が持ってきて置いていったばかりのだった。中身には御飯の上に煎鶏卵《いりたまご》と海苔《のり》をかけて、隠元豆《いんげんまめ》のおかずに、味噌漬がはいっている約束になっていたのだ。お弁当の袋をとるのが待遠しくってならなかったのだった。となりにならんでいる女の子と、副食物《おかず》の分配《わけ》っこの相談までしてあったのに――机の上には、新らしい小さな箸箱《はしばこ》と茶呑《ちゃのみ》茶碗が出ている――
おまっちゃんは露路の方を睨《ね》めて泣きたいのを堪えていた。大紙屋の白壁蔵の壁には大きな亀裂《ひびあと》があって、反対の算盤屋《そろばんや》の奥蔵は黒壁で、隅の方のこんもりした竹が冷《すず》しく吹いている。石榴《ざくろ》の花は赤く散りこぼれている。
女中がお弁当を持ってきた時に、
「御飯が炊《た》きたてですから、悪くならないように、風通しのよい場処へお置きなさいまし。」
と念をおしていった。それでおまっちゃんは竹の風の吹く、窓の敷居の上へのせておいたのだった。昨日|奪《と》られた子も、一昨日《おととい》奪られた子も、窓に近いお座《ざ》だった。
あたしは自分のお弁当をおまっち
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