御新造さんが、番茶を酌《く》み入れてくれるのをみんながとりにゆくのだった。
 ところがこの二、三日、午飯時《おひるどき》になると、きっと誰かしらのお弁当が紛失《なくな》っている。今日も眼玉の廂《ひさし》とあだなされている、あたしの妹の分がなくなった。
 年子《としご》のようなあたしの妹は、一年ばかり間をおいて学校へ上った。色の白い涼しい眼の子だが出額《おでこ》なので前髪を深くきってさげていたので、眼玉の廂といわれていた。男の子なんぞに負けないので憎まれっ子でもあった。
 お附きの女中のついてくる、八畳の間の方のお嬢さんは、下駄箱も特別なら、課業も午前《おひるまえ》ぎりでお迎えがくるので、お前もまだ年がゆかないから午前《おひるまえ》だけにしろと祖母にいわれたのにきかないで、お弁当にしてもらったばかりの、初の日に奪《と》られたのだった。
 おまっちゃんは糸で編んだ網に入れてある、薄い硝子《ガラス》の金魚入れから水が洩《も》って廻るように、丸い大きな眼に涙を一ぱい溜《ため》て堪《こら》えていた。奪られたお弁当箱は、祖母が根負けして買ってくれた朱塗《しゅぬ》りの三ツ重ねの、小《ち》いさい丸いの
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