ためには……」
そこだ! と先生は飛上って卓《つくえ》を打った。堪えかねるほど待兼《まちか》ねた答を、予期しないアンポンタンから得たので、先生の褒めかたは気狂いじみてたほどだった。
「傑《えら》い、傑い。その武士も傑いが、ヤッちゃんも負《まけ》ずに傑いぞ。小錦関《こにしきぜき》だ、やがて日《ひ》の下《した》開山《かいさん》の小錦関だ。」
小錦という力士は後に横綱になったが、まだそうならないうち、新進気鋭で売出しかけてでもいたのであろう。そういって褒《ほ》めあげた末に、人間は大将を望んでやっと兵卒位にしか出世をしないものだという事や、恐らく○○先生も世が世であれば大名を志望《こころざし》てお出《いで》だったであろうがなぞと、呆《あき》れ顔に佇《たたず》んでいた、例の助教師の方へ嫌味をふりかけて、そのくせ人の好い笑顔をむけたりするのだった。
この教室の窓の格子のところへ、夏になるとお弁当をみんなが並べておいた。運動場へは台所口から出るのだった。台所には、みんなが持ってきてある小さい土瓶《どびん》が、せとものやのように幾段にも釘《くぎ》にかけてずらりと並んでいた。お午《ひる》になると
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