銭ばかり数えている者で人に嘲《あざけ》られていたが、ある事変が起って、人を助けなければならない時、日頃愛する金銭を、すこしもかえりみなかったので、前に罵《ののし》った者どもも讃《ほ》めたというところで質問した。割合金銭のことに興味を持つ――店の買物の代価を、客から受取って銭箱へ入れることや、売上げの勘定に馴《な》れている子たちも多かったので、話はよくきいていたが、なぜ褒《ほ》めたかという質問には答えが満足でなかった。先生はジリジリして褒めたくってたまらないのが褒められないので機嫌がわるくなりかかっていた。先生の底の方に光る眼が私の上にギョロリときたが、暫《しばら》くたゆたってから、
「ヤッちゃん。」
と指さした。子供は率直だ、あたしの家ではあまり金銭《おかね》の顔を見せない、あたしに金銭の貴さを知らせるには無理だった。だからこの場合、あたしはその武士がお金をならべて楽しむのは、あたしが姐様《あねさま》を飾るのとおなじ位にしか見えなかった。だから皆が考えかねているのが不思議でかえって自分の考えが間違ってるのかも知れないとさえおそれた。それでも言った、
「ふだんはお金が好きだが、人を助ける
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