草履、お弁当はみんな揃えてお寿司《すし》の折詰を学校からあつらえ、お菓子や飲料《のみもの》のことまで世話人を定《き》めたところが、あいにくその日は朝から曇って、八時ごろには地雨《じあめ》になってしまった。無論子供たちも落胆して泣いたが、附添いや何かに慰められて帰ろうとした。すると先生は帰ってはいけないと叫び出した。といって雨が降りやんだからとて、その日運動会が催うされるはずはないし、もう何処《どこ》の学校でも子供は帰したからと、誰がいっても先生はきかなかった。それでも、一人二人と帰ってしまって、教場はガランとなる、其処此処《そこここ》に赤や白の鼻緒の草履の山があって、おすしをもっていったものも、食べたものもあるので残りすくなになって、残った手伝いが跡片附けをはじめても、先生は竹格子の窓に両手で顔をはさんだまま空を見詰めていた。さようならをしにゆくと、急に先生はたまらなくなったように涙をこぼしだして激しいすすりなきになった。
また、こんな事もあった。丁字髷《ちょんまげ》に結《い》ったお侍《さむらい》と男の子のむきあっている絵の読本の時間だった。なんでも大変|吝嗇《りんしょく》な武士で金
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