。しかし別段庭も空地《あきち》もないので机場《おざ》におさまって遊んでいるのだが――まず硯箱《すずりばこ》からしておもちゃ箱に転化させて、水入器《みずいれ》にお花をさす。硯箱一ぱいに千代紙をしいて、硝子《ガラス》を――ガラス屋がそうはなかったから、機械《からくり》の亀《かめ》の子《こ》やその他の玩具《おもちゃ》の箱の蓋《ふた》を集めて具合よく敷きこんで、金、銀の丈長《たけなが》や、金銀をあしらった赤や緑の巾広《はばひろ》の丈長を、種々の透しを切り込んで屏風をこしらえて、姐《あね》さまを飾りはじめる。姐様は、半紙で小さな坊主つくりを作って、千代紙の着物をきせることもあるが、多くは、絵双紙店《えぞうしや》で売っているのを切りぬく。自分ひとりではつまらないが、向側も隣席《となり》もみんなしてするのだから面白い。さて、このアンポンタンがどんななりをしていたかというと、黒毛|繻子《じゅす》がはやりだした時分なので、加賀|紋《もん》(赤や、青や、金の色糸で縫った紋)をつけた赤い裏の羽織、黒|羅紗《ラシャ》のマントル(赤裏)を着て下駄は鈴のはいったポックリだ。
 学校と露路を間《あい》にして、これも
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