先生が、まずあたしだけを部屋へよんで、お茶をくんでくれて、ぼた餅《もち》をとってくれたりする。すると、きっとあたしが泣き出すので、それからおまっちゃんを連れにゆく。おまっちゃんにもおなじようにぼた餅をとってやる。
暮れかかった町を、二人の幼い姉妹が連れだって帰ると、後の方から離れて、秋山先生がそっと送ってついてきてくださる――
秋山先生は女の子の仲間にいると女親のようにものをいった。ある春の日、山吹きのしん[#「しん」に傍点]をぬいて、紅《べに》で染めて根がけにかけてきた小娘《こむすめ》が交って、あたしのお座をとりまいていた。あたしはいつもの通り石盤へ人間を2の下へリの字をつけたような形に描いて、昨日の続きの出たらめ話をしているときだった。
「金坊《きんぼう》、沈丁花《ちょうじ》の油をつけてきたね。」
と通りがけに先生が言った。金坊とよばれたのは古帳面屋の娘で、清元《きよもと》をならっている子だった。ニコリと笑った、前髪から沈丁花の花をだして見せた。
この学校の向うに、後日《ごにち》あたしが生花《いけばな》を習いにいった娘の家で、針医さんがあった。もすこしさきへゆくと、塀ぎわに堀
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