「松さんはよいものをおとり。」
顔馴染《かおなじみ》の女中さんは、ニコニコしてなるたけ涼しいところへ座らせようと、茣座《ござ》の座ぶとんを持ってウロウロした。どの広い座敷も、みんな一ぱいなので、やっと、通り道ではあるが、縁側についたてで垣をつくってくれた。
八十に近い祖母と、六ツ位の女の子と、松さんとは親密に車座《くるまざ》になった。祖母のお膳《ぜん》には大きな香魚《あゆ》の塩焼が躍《おど》っている。松さんは心おきなく何か一生懸命に話したり願ったり、食べたりしている。あたしが所在なくしていると、若い女中が来て、噴水の金魚をごらんといった。
松田はいろんなことで有名になっているが、噴水と金魚もたしかによびもののひとつであったのであろう。あたしは余念なく眺めていたが、
「嬢《じょ》っちゃん、早くこちらへ来て――」
と顫《ふる》えた声で言った女中さんに引っぱられて祖母のいる場処へかえった。
と、どうしたことか、他の女中がお膳をはこんで裏二階の隅の方の室《へや》へ席をうつそうとしているところだった。近くにいた支那人の一団《ひとかたまり》が、喧《やかま》しくがやがや言って席を代えさせま
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