蕎麦屋の利久
長谷川時雨
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)漂《ただよ》っていた
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)伊勢|朝長《あさおさ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「の」の中に小さく「り」、屋号を示す記号、48−11]
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角の荒物屋が佐野吾八さんの代にならないずっと前――私たちまだ宇宙にブヨブヨ魂が漂《ただよ》っていた時代――そこは八人芸の○○斎という名人がいたのだそうで、上《あ》げ板《いた》を叩《たた》いて「番頭さん熱いよ」とうめ湯をたのんだり、小唄《こうた》をうたったりすると、どうしても洗湯《おゆや》の隣りに住んでる気がしたり、赤児《こども》が生れる泣声に驚かされたりしたと祖母がはなしてくれた。
この祖母が、八十八の春、死ぬ三日ばかり前まで、日髪《ひがみ》日風呂《ひぶろ》だった。そういうと大変おしゃれに聞えるが、年寄のいるあわれっぽさや汚《きた》ならしさがすこしもなく、おかげで家のなかはすがやかだった、痩
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