《は》うようにして上陸《あが》る――
その折こうも言った。香魚《あゆ》は大きい、とってきてすぐ焼くと、骨がツと放れて、その香《か》のよいことと――
あたしは先年、神路山《かみじやま》が屏風のようにかこんだ五十鈴河のみたらしの淵《ふち》で、人をおそれぬ香魚が鯉より大きく肥《ふと》っているのを見た。昔は、そのおちこぼれが、伊勢の人に香よき自慢の香魚を与えたのであろう。
帰途《かえり》は、めっかち生芽《しょうが》とちぎ箱《ばこ》がおみやげ、太々餅《だいだいもち》も包まれている。で、この祖母の道楽は、彼女の掴《つか》んでいた道徳は、一視同人ということで、たまたまの外出はその点で彼女を自由にさせくつろがせたものと見える。また、彼女の気性を知っている者たちは、逆らわずにそのままに彼女の厚意をうけいれた。
「御隠居さん、今日は松田ですか?」
俥《くるま》の上と下で、帰りのお夜食の寄りどころが定《き》まった。お夜食といっても五時になるやならずであろうが――そこで。京橋ぎわの(日本橋の方からゆけば京橋を渡って)左側、料理店松田へ寄った。巾《はば》の広い階子段《はしごだん》をあがって二階へ通った。
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