と言った。逢いたいにも逢いたかったが、世話になる部屋の若い者に礼をしてくれと頼むのだった。

 さて、
 イッチク、タイチク、タエモンドンの乙姫《おとひめ》さまが、チンガラホに追われて――
などと、大きな声で唄《うた》いつれていたアンポンタンも小学校へあがる時季が来た。そのころは勝手なもので、六歳でも許したものだった。尋常代用小学校といっても小さく書いてあるだけで、源泉学校だけの方が通りがよかった。重《おも》に珠算《しゅざん》と習字と読本だけ、御新造《ごしんぞ》さんも手伝えば、お媼《ばあ》さんもお手助けをしていた。
 引出しが二つ並んでついた机を松さんが担いで、入門料に菓子折を添え、母に連れられて学校の格子戸をくぐった。先生は色の黒い菊石面《あばたづら》で、お媼さんは四角い白っちゃけた顔の、上品な人で、昔は御祐筆《ごゆうひつ》なのだから手跡《しゅせき》がよいという評判だった。御新《ごしん》さんはまだ若くって、可愛らしい顔の女だった。
 格子戸をはいると左に、別に障子を入れた半住居の座敷があって、その上の二階は客座敷になっていた。先生は怖《こわ》いから大変年をとった人だと思ったが、多分三
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