に燃したと雄弁にまくしたてて叱られた。
 家にかえっても何にも言わないので、祖母はあたしを可愛がった。妹は外でおとなしく、帰るとすぐ告げ口をするので、猫かぶりだといって、いつもおいてきぼりにされていた。言いつけ口は嫌いだが、決してもの事を隠しだてするひとではなかったから、帰るとすぐその晩か、遅くもあくる夜は、松さんの俥が荷物ばかりを積んで、再びなまけ者の住居を訪れるのだった。
「無駄だけれど――」
と言いながら母は布団《ふとん》やその他のものを積ませた。
 だが、鉄さん自身が浅間《あさま》しい姿で、地虫のように台所口につくばった時、祖母は決してゆるさなかった。同情の安売りはしなかった。取次ぎが、ぜひ御隠居様にお目にかかりたいと申《もうし》ますと伝えたとき、台所の敷居に手をつくようなことをせず、表から来いと言わせた。
 彼女は卑屈を嫌ったが、決して貧乏を厭いはしない。ところが、哀れな鉄さんは、卑屈をいやしまず貧乏を鼻白《はなじろ》んだ。彼は何時《いつ》までもウジウジ屈《かが》んでいた。祖母は堪《たま》らなくなったと見えて台所口へゆくと柄酌《ひしゃく》に水をくんで鉄さんの頭からあびせかけた
前へ 次へ
全24ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング