に取りにやった。
「お前をそんなにして投《ほう》りだしておいて、鉄の人非人は何処《どこ》へいった。」
というと、褌《ふんどし》ひとつで戸棚から、
「面目も御座《ござ》いません。」
と這出してきた。そして、祖母が救いに来たのだと知ると、一昨日の晩、女が死ぬような病気で、どっと寝ておりますといったのは、二人《ふたり》ともすっかり忘れてしまって、裸でも元気な調子でともかくやりきれないという事を、子供のあたしにも面白くきかせるほど巧みにしゃべりたてた。
「よし、よし。貴様はのたれ死しようと勝手だが、女子《おなご》はそうはゆかぬ。」
 祖母がいるうちに、米屋からは米がはこばれ、炭屋からは炭がきた。松さんが運んだ包みから出た着物を女は着た。
 鉄さんは景気よく根太のつくろいをして、戸棚の中に敷いていた花莚《はなむしろ》をおき、松さんは膝掛《ひざか》けを敷いて祖母とあたしのいるところをつくった。
 こんな処へ来ても、人ぎらいをしない祖母は、てんやから食物《たべもの》をとって、みんなで会食した。酒が廻ると鉄さんは、どんなふうにして大屋をこまらせてやったとか、畳は売ってしまって、根太は薪《まき》のかわり
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