、俥宿の帳附けになったり、頭《かしら》の家に厄介になったり、遊女《おいらん》を女房にしたりしているうちに、すっかり遊人風になり金がなくなると、蛆虫《うじむし》のように縁類を嫌がらせた。
この男、あたしの目に触れだしたのは、越前堀《えちぜんぼり》のお岩|稲荷《いなり》の近所に何《な》にかに囲われていたころだった。染物屋《こうや》の張場《はりば》のはずれに建った小家で、茄子《なす》の花が紫に咲いていた。白っぽくって四角い顔のお婆さんが、鉄の悪口をグショグショと祖母に語っていた。でも、その時分鉄さんは、父に用事を言いつけられると、ヘイ、と分明《はっき》り返事をして、小気味よく小用をたしていた――尤もむずかしい仕事ではない、家のなかの雑用だが――彼は見かけだけは稜々《りょうりょう》たる男ぶりだった。ちょっと類のすくない立派な顔と体をもっていた。面長な顔に釣合った高い鼻、大きなきれの長い眼、一口に苦味走った男だったが、心根は甘かったものと見える。母親が、夜になると忍ぶようにして勝手口からたずねてくると、祖母の膝《ひざ》の前にうずくまって恵みを願っている。その女が帰ってしまうと祖母は溜息《ためい
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