ゆ》だの蕎麦《そば》がきだの、すいとんだの、煮そうめんだの、熱いものばかり食べさせられた。病人の出た家の厠《かわや》は破《こわ》して莚《こも》をさげ、門口へはずっと縄を張って巡査が立番をした。
 深川芸妓だったおたけさんもコレラで死んだ。背の高い、反《そ》り身な、色の白い、額の広い女で祖母の姪《めい》だけに何処《どこ》かよく似ていた。辻車に乗って来て、気分がわるいと言った。それなら早く帰る方がよいだろうと、その車で出たが、車屋がすぐに引返《ひっかえ》してきて、お客様が変だとおろした。
 門から這入《はい》って、庭を通って来て、渡り縁に腰をかけたが、今出ていった時とは、すっかり相恰《そうごう》が変って、額を紫っぽく黄色く、眼はボクンと落ちくぼみ、力なく見開いている。なぜ引返したといっても辻車では仕方がなかった。住居は遠くもない鉄砲町なので、車夫は沢山のお礼をもらって病人を送っていった。
 幾日かたった。おたけさんの開いていた氷屋の店は、ガランとして乾いていた。軍鶏屋《しゃもや》をはじめたのがいけなくなって氷店になったのだった。道楽ものの兄が二人いたが、その一人と母親とが伝染《うつっ》て、
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