う》をうんと飲んで死んだと、荒物屋佐野さんの十三人目の、色の黒い、あぶらぎった背虫のように背を丸くしたおかみさんが宅《うち》へ知らせに来た。佐野さんは時々面白い話をした。おかみさんをとりかえるたんびに、だんだん悪くなって、こんな汚ない女にとうとうなってしまったといった。そういわれても怒らずに、おかみさんは、糊《のり》を煮ていた。お天気のよい日、朝の間《ま》に、御不浄《ごふじょう》の窓から覗くと、襟の後に手拭を畳んであててはいるが、別段たぼの油が着物の襟を汚すことはなさそうなほど、丸くした背中まで抜き衣紋《えもん》にして、背中の弘法《こうぼう》さまのお灸《きゅう》あとや、肩のあんま膏《こう》を見せて、たすきがけでお釜の中のしめ[#「しめ」に傍点]糊を掻《か》き廻していた。※[#「の」の中に小さく「り」、屋号を示す記号、48−11]とした看板がかけてあって、夏の午前《あさ》は洗濯ものの糊つけで、よく売れるので忙しがっていた。平日《ふだん》でも細い板切れへ竹づッぽのガンクビをつけたのをもって、お店から小僧さんが沢山買いに来た。
 コレラは門並《かどなみ》といってよいほど荒したので、葛湯《くず
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