も困りましたと言っていた。
そんな事も、よく聞きたいが、老人とわたしの座とは、かなり間がへだたっている。それに、洋服の男子《ひと》が、その老人の方へむかって坐って、何か話しかけているので、老人のいうことは、半分もきこえてこなかった。
「彼女《あれ》も、さぞ、わからない兄だと思ったでございましょうが、わたくしも困りました。わたくしの眼の悪くなったのも――」
と、黄白《きじろ》い四角い顔の、腫《は》れあがったような眼瞼《まぶた》に掌《てのひら》をかぶせて、
「ただいまで申す、殴《なぐ》りこみのようなことを、彼女《あれ》がいたしましたので――」
新旧思想の衝突――さまざまな家族苦難の一節の、そんなことを話すように、口がほぐれて来たのは、記念の写真をとったり、お墓へ参ったりしたあと、谷中《やなか》名物の芋阪《いもざか》の羽二重団子《はぶたえだんご》などを食べだしてからだった。
「それはどんな訳で?」
と、きいたものがある。
「荷物でしたかなんだか、なんでもわたせと、男どもを連れて押かけてくるというので、それならばと、こちらでも、用心して人もいたのですが――戸障子をたたき破《こわ》すような騒
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