あおがえる》が飛び込んで来た。泡鳴は団扇《うちわ》で追いまわし、清子も手伝った。灯《ひ》によって来た馬追虫《うまおい》もいる、こおろぎもいる、おけらもいるという騒ぎに、仔犬《こいぬ》もはしゃいで玄関から上ってくれば、飼猫《かいねこ》も出て来た。虫のとりあいをして、猫がこおろぎを食べると、犬がくやしがってワンワン吠《ほ》えたてた。
「まるで動物園だ。」
と泡鳴が笑っているという図もあったりした。家庭生活にそこまで、犬も猫もきらいな泡鳴をひっぱりこみ、浸らせた清子の、一筋でない信念の強さがそれでも知れるが、そればかりではなかった。泡鳴は、そうした和《なご》やかな団欒《だんらん》には、勧進帳をうたったりなんかして、来あわした妹に、こんなことは兄さんはじめてだと、びっくりさせたりした。
 ――進んでノラともなれず、退いて半獣主義に同化することも出来ない。恋と思想と一致しない。私たちは常に絶えざる苦悶《くもん》と懊悩《おうのう》とを免かれない。しかも君に対する恋の執着はどうすることも出来なくなっている――
 それは偽りのない彼女の告白だ。
 泡鳴は、金が出来たら広い場処に移って、鍵《かぎ》のかか
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