ると感じながら、自分の主張は曲げられないと、キッシリと眼を閉じていた。見かけだけは仲の好《い》い、新婚夫婦に見えて、霊肉合致の域にいたるまで、触れさせまいとする闘いに、互に心肉の鎬《しのぎ》を削っている、妙な生活!
 去年の今ごろ(明治四十一年)は、日本婦人の権利擁護のために、治安警察第五条解禁の運動に朝から晩まで駈《か》け廻っていたものだが、今年は肉と霊との恋愛合戦に、血みどろの戦いだ!
 彼女は、首を縮《すく》めて、ふとんをかぶると、大丸髷《おおまるまげ》が枕にひっかかった。
       *
 許す許さぬの解決はつかないままだが、日が立つにつけ、この同棲生活の厳寒も、いくらかゆるんで来た。いらいらした霜柱も解けかけて来た。杉の木の二、三本あった庭には、赤坂からもって来た、乙女椿《おとめつばき》や、紅梅や、海棠《かいどう》などが、咲いたり、蕾《つぼみ》が膨《ふくら》んだりした。清子の大好きな草花のさまざまな種類が、植えられたり種を播《ま》かれたりした。
「まあ、あなたが、そんな事して下さるようになったわね。」
と清子がいうように、泡鳴氏が土をいじっていることがある。文壇の交友たちの
前へ 次へ
全38ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング