もなるべく考え直して承諾してもらいたい――そんな文面だった。
「あなたは、樗牛《ちょぎゅう》を愛読することから来たロマンチスト、僕があなたのロマンチストになるか、君が新自然主義になるか。」
 泡鳴はそんなふうにもいったが、とも角《かく》共同生活にはいる話は、手っとりばやく纏《まと》まったのだった。
 それまで、彼女は、五年間ばかりいた赤坂|檜町《ひのきちょう》十番地の家を引き払うことにしたのだ。拾った猫で、よく馴《な》れているのがいたが、泡鳴が厭《きら》いだというので、近所へあずけてまで行くことにした。たしかに清子は、泡鳴に引かれたものであったには違いない。
 その前年かに、泡鳴は小説「耽溺《たんでき》」を『新小説』に書いている。自然主義の波は澎湃《ほうはい》として、田山花袋《たやまかたい》の「蒲団《ふとん》」が現れた時でもあった。
 ここで、泡鳴と清子の、不思議な生活がはじまることを書こうとする前に、婦人解放の先駆、青鞜社の文学運動が、男の連中をも、かなり刺激したことを思出した。生田春月《いくたしゅんげつ》さんが、花世《はなよ》さんに求婚したのも、そんなふうな動機だった。
 そしてま
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