おいて、泡鳴と碁を二回かこんだが、二度とも清子が敗《ま》けた。そのあとを、二時間ばかり、泡鳴が玉突きをするのを見物していたが、こうした友人づきあいが、すっかり打解けた気分にはいりこめたものと見えて、幽霊坂の上でわかれる時には、引っこしの話までまとまって、新らしく家を借りる金を十五円泡鳴は清子に渡した。
「愛のない結婚なんて、自身を辱《はずか》しめることだし、男を欺く罪悪だ。」
と清子は結婚は拒絶したが、一家に同棲して見るのは承知した。
「無論、あなたの人格を尊重して――」
という約束をした。
この約束は、突飛《とっぴ》なようでもあるけれど、二度の告白で、泡鳴の正直さは、正直な彼女の心に触れたのでもあったろうが、だが、彼女は独りになると机の前で考えこんだ。愛は霊からはいったものでなければ本当でない、そして、正しい理智から出発したものでなければならないという、平常《へいぜい》からの持論が拒んだ。
――あたしは、あなたに友情以上はもてない。
そう書いて、預かったお金を封入してかえそうとするうちに泡鳴の方から手紙が来た。
勿論《もちろん》第一条件だけでも拒絶されるよりもよいが、第二条件
前へ
次へ
全38ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング