ては、いつまでも止めないから、一度嫁にやってしまおう、そしたら、なんぼなんでも、いくら惚《ほ》れてるからって、あの貧乏じゃお尻が落附くまい、かえって思いきらせるには好いからって魂胆で嫁《や》ったんだって言いますものね。嘘じゃあないでしょうよ、なにしろ強《しっ》かりしていますからね、養母っていう方《ほう》が。――ええ、二人ありますとも、お母さんを二人しょってるのですから、あの女《ひと》も大変ですよ。おまけにお母さん次第になるのだから」
売れっ妓《こ》のお鯉が、洗い髪のおつまが坐らなければならなかった市村の家の、長火鉢の前におさまった当時の様子が、お〆さんの言葉によって見える。おつまは失意の女として、三十間堀《さんじゅっけんぼり》のある家の二階から、並木の柳の葉かげ越しに、お鯉が嫁入りの、十三荷の唐草《からくさ》の青いゆたんをかけた荷物を、見送っていたのだときいている。やがてお鯉も、自分と同じ運命になるだろうと思ったと言ったというが、お鯉もまた二、三年すると、そこの、長火鉢の前の座布団《ざぶとん》の主《ぬし》として辛抱することが出来なかった。恋女房であろうとも、家の者となればあしらいも違
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