りなんですよ。そりゃ利《き》ればなれがよくってね、横浜からの遣いものなんざ、貰《もら》うとすぐに、来たもの徳《どく》で、こんなものやろうかってやっちゃうんですからね、さっぱりしたものでさあ。知れたってすこしも恐れるんじゃないから好《い》いでしょう。あたしゃあ好きでしたね。お使いにたって持ってくときもありましたが、見ていてグッと溜飲《りゅういん》がさがっちゃうので、かまうもんですか、やっちゃいなさいよ。旦那がやかましく仰しゃりゃ、またこしらえさせますからさって、唆《け》しかけたものでさあ」
といいながら、器用に、ポンと音をさせて煙管《キセル》の吸殻《すいがら》を吐月峰《はいふき》へはたいた。
「けれどお鯉さんもたいていじゃなかったのですよ。一体|無頓着《むとんちゃく》なのに、橘屋《たちばなや》ときたら、そのころはしどい借金だったのですからね。厭《あ》きもあかれもしやあしないでしょうが、母親が承知しない。それゃ羽左衛門のおっかさんは実に好い人で、どっちでも向いていろという方を向いている人でしたけれど、お鯉さんの方のが承知しやあしません。もともと市村《いちむら》へやったのは、浮気をさせておい
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