一世お鯉
長谷川時雨

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)妾《めかけ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二代|揃《そろ》って

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ずぼら[#「ずぼら」に傍点]
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       一

「そりゃお妾《めかけ》のすることじゃないや、みんな本妻のすることだ。姉さんのしたことは本妻のすることなのだ」
 六代目菊五郎のその銹《さび》た声が室の外まで聞える。
 真夏の夕暮、室々のへだての襖《ふすま》は取りはらわれて、それぞれのところに御簾《みす》や几帳《きちょう》めいた軽羅《うすもの》が垂《た》らしてあるばかりで、日常《つね》の居間《いま》まで、広々と押開かれてあった。
 打水《うちみず》をした庭の縁を二人三人の足音がして、白地の筒袖《つつっぽ》の浴衣《ゆかた》を着た菊五郎が書生流に歩いて来ると、そのあとに楚々《そそ》とした夏姿の二人。あっさりと水色の手柄――そうした感じの、細っそりとした女は細君の屋寿子《やすこ》で、その後《うしろ》は、切髪の、黄昏《たそがれ》の色にまがう軽羅《うすもの》
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