あります。一、二年もしてやってゆけば、妹に譲って、わたしはわたしの何か仕事をはじめようと思っています」
 長椅子の方へ来て、くつろいでこんな打明けばなしをしてから、御免なさいといって、はじめて巻煙草《まきタバコ》の一本をつまんだ。
 お鯉さんのこれからの生活は、かなり色の褪《あせ》た、熱のないものであろうとその時わたしは思った。彼女は羽左衛門と、三下《さんさが》り、また二上《にあが》りの、清元《きよもと》、もしくは新内《しんない》、歌沢《うたざわ》の情緒を味わう生活をもして来た。巨頭宰相の寵愛《ちょうあい》を一身にあつめ、世の中に重く見られる人たちをも、価値なきものと見なすような心の誇りも知って来た。いかなるものが現われ来て、この後の彼女を満足させるほどその生活を豊富にするであろうか? それは疑問だ。何にしても彼女の過去が、あんまり光彩がありすぎた。あざやかすぎた。
 とはいえそれを救うのは、純潔なる魂の持主、熱烈な情熱と、愛情でなければならない。彼女が、生来まだかつて知らぬ、清純な恋そのものでなくてはならない。が、悲しいことに、いたずらに費消された彼女の情熱は、真純さを失って、彼女の
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