外見のかたちよりは若さを消耗している。
 彼女が子供好きで、子供がなくてはさびしくていられないという心持ちは察しることが出来る。子供ほど彼女の複雑な気持ちを害さないものはないであろう。彼女の真の慰安は――友達は、無邪気な子供よりほかないであろう。

 お鯉さんとはなしをしているうちに、その声に、いろいろと苦労をした人だと思わせられる響きを感じた。美人と境遇と声音《こわね》――これもこの後心附けなければいけないと思った。それから、お鯉さんには、わたしが気にかける二本の横筋が咽喉《のど》にあった。ほんにこの筋のある美女で苦労を語らない人はない。
 考えると人生はさびしい。そしてむやみに果敢《はか》なくなる。
[#地から2字上げ]――大正十年一月――

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昭和十年附記 昨年赤坂田町の待合「鯉住」の女将として、お鯉さんが某重大事件の、最初の口火としての偽証罪にとわれ、未決に拘禁されたのは世人知るところであり、薙髪《ちはつ》して行脚《あんぎゃ》に出た姿も新聞社会面を賑《にぎ》わした。おお! 何処までまろぶ、露の玉やら――
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