を見せて、すましかえって熱い珈琲《コーヒー》をはこんで来た。三人はだまって角砂糖を入れて掻廻《かきまわ》した。
「姉の考えでは、残しておいて下さったもののあるうちは、何にもしないで、旦那の余光で暮してゆこうとしていたらしかったのです。そうだとは言いませんが、どうもそういう考えらしかったのです。何にもなくなった時に、その時にお鯉にかえるのだと思っていたのだと思います」
「あたし、みんなに生別れたり死別れたりして、何もかもなくなってしまった時に、今日から自分の生活になるのだと、しみじみと思いましたよ。けれど、待合《まちあい》や、料理店をはじめると、分明《はっきり》した区別がないので、あんな風になったと思われますから、はじめるならいっそ、みんなから見張ってもらっているこんな商業《しょうばい》の方が好いと思って、ここの株式の専務ということになりました」
「貞操を守れの、守らせるの、いや守れないのといったって、姉の所行はわたしは見て来ています。こうして立派に過して来たのですから」

 しげ子さんは客が来て中座した。そのおりをよき時と、そこにいられては聞きにくいことをきいた。
 四谷《よつや》で生
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