り出来ません。出来ることならばいたしますが、わたくしにはとても出来ないと思いますからいたしません。明日《あした》の心さえ自分でわからないほどですもの、長い一生をかけて、どうしてそんな、とんでもないお約束が出来るものですかって、いってやったんです」
それは甚《ひど》く雪の降った日のことであったという。座には早川千吉郎、益田なにがし、その他|錚々《そうそう》の顔触れが居並《いなら》んでいた。その中へ引きいだされた彼女は、慾を捨《すて》ていたのでそれが何よりもの味方で心強かった。彼女はこじれた金などはもう取りたくなかった。それよりも早く自由な身になって桎梏《しっこく》から逃《のが》れたかった。
雷が鳴る――はらはらしたのは仲にたつ人々であった。世外侯《せがいこう》の額の筋がピカピカとすると、そりゃこそお出《いで》なすったとばかりに、並居《なみい》る人たちは恐れ入って平伏する。そして小声で、悪いようには計らわないから、御尤《ごもっと》もと頷《うな》ずいてしまえとすすめる。
「あなた方は、あの方を怒らしてしまうと後の恐《こわ》いことがあるからでしょう。あたしはちっとも恐かないから嫌だ」
こ
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