の場で下さるものを銀行へ入れておいただけだったのです。ですから当然自分のものだと思っていたのです。それをいくら問いあわせても返事をしてくれずにほっておいたのちに、井上さんへ呼ばれるといまの話――個条書きの一件なのです。
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一 貞操を守る事、
一 子供の教育を自儘《じまま》になさざる事、
一 犯《みだ》りに外出いたすまじき事、
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 そんなことを読みあげて判をおせって……」
 語るものも、聞くものも、顔を見合せて失笑した。
「あたし夫人《おくさん》じゃない、妾《めかけ》ですっていってやったの」
 なんという簡にして要を得た、痛快な答えではないか?

       七

「そうすると怒ったのおこらないのって、あの有名な癇癪玉《かんしゃくだま》でしょう、それを破裂させたのです。馬鹿ッ、貴様はッて怒鳴ったのですけれど、あたしゃあ怖《こわ》いことはないから言ってやりましたわ。第一貞操を守る事なんて、そんなこととても出来ません。わたくしは若いのですし、旦那はおかくれになったのですから、これからのことはわたくしの自由では御座いませんか、そんなお約束はうっか
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