召使いとがいて、以前の家に住んでいたのですもの」
 おお、その時であろう、お鯉さんが貧乏していると伝えられ、あるものをみな手離しているといわれ、それはみんな彼女のふしだらからだなぞと噂されたのは――
「それもね、わたしが強情《ごうじょう》で、井上さんと喧嘩《けんか》をしたからですの。だって強情にもなりますわ、意地も悪くなりますわ、困らしたらば彼女《あいつ》頭をさげてくるだろうと、弱いものいじめをなさるから、わたしはどうしても屈服することが出来なくなって、苦しい意地も張るようになったのです」
「では、その財産をどうしようと先方《むこう》ではいったのです?」
「利息だけで暮らせ、それを毎月貰いに来いというのです。それには大変な個条書きが附いていて、それで承知ならば実印を押せというじゃありませんか。その個条書きったら、ほんとにばかばかしくって、とてもあたしには、さようで御座いますか、承知いたしましたとはいえないのですもの。今度出しておいてお目にかけましょうね、その個条書きっていうのを、あたしはちゃんと取ってあります。あんまりおかしいから、あたしは立派に張って巻物にしておこうと思っていますわ。
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