いう令妹の言葉に頷《うなず》いて、
「ええ、そうなの。そうではないの、あの方だって、誰の差図をうけろのどうのとは仰しゃらなかったし、もともと遺産といっても、あの方がおなくなりになってから、御本邸の方の財産をへらして分けて頂くのでもなんでもなかったのですもの」
「では、もともと貴女のものとしてあったのですか?」
わたしはもうへだてもわすれて、率直に自分の聞きたい方に急いだ。
「広太郎という御子息がありましたの、その方の事は大層信用していらっしゃったので、俺《おれ》が死んだらば、直にこの手紙を子息《むすこ》のところへもってゆけ、そうすれば、何にも言わなくっても、すっかり分るようになっていると仰しゃって、表書《おもてが》きにその方の名前を書いた文《ふみ》が出来ていましたのですけれど、その方《かた》のほうが先へおなくなりになってしまったので、それで面倒くさくなったのです。すった、もんだで、一年半というものは実に嫌《いや》な月日をおくりました。その間の苦しみって、困ったの困らないのって、お話にゃなりません。何しろその金へは手が附けられないのですものね。三人の子供と、二人の老母《はは》と、十人の
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