て出ていった。わたしは取次ぎをまって佇んでいた。
何処《どこ》の珈琲店《カフェー》にもある焦茶《こげちゃ》の薄絹を張った、細い煤竹《すすだけ》の骨の、帳《とばり》と対立《ついたて》とを折衷したものが、外の出入りの目かくしになって、四鉢ばかりの檜葉《ひば》や槙《まき》の鉢植えが、あんまり勢いよくはなく並べられている。その後には白蝋石《しろいし》の小卓が幾個か配置されてある。その卓のとっつきの一つで、小柄な娘がナフキンを馴《な》れた手附きでせっせと畳んでいる。頸《くび》に湿布《しっぷ》の繃帯《ほうたい》をして、着流しの伊達《だて》まきの上へ、緋《ひ》の紋ちりめんの大きな帯上げだけをしょっている女は、掃き寄せを塵取《ちりと》りにとったりして働いていた。やがて、お酒と、煙草と、夜更《よふか》しと、おしゃべりとで、声がつぶれてしまったのであろうと思われる、不思議な調子の若い男が、短衣《ちょっき》で出て来て、キャラキャラした声で来意をたずねた。
短衣の小男は人気者と見えて、すこしの間にみんなから話しかけられていた。階段の下の、酒場の掃除をしている二、三人の娘たちは、その男の名をケンチャン、ケン
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