チャンと呼んでいた。
酒場の娘の一人はこんなことをいっていた。
「随分飲んだわ、なんとかいっちゃ一ぱい、かんとかいっちゃあ一ぱい……」
「……あたしね、一万円あれば八千円で帯を買って、あとの二千円は……とかする」
ケンチャンがその時なかなか面白いことを言ったに違いなかった。みんな元気に機嫌《きげん》よく笑ったが、聞きつけないものには、何をいっているのか、あんまりな上声《うわごえ》で、まるでわからなかった。すると、ナフキンをたたんでいた娘が、
「ライオンは多田さんという人がいるのよ、そりゃ面白いってっちゃないの、(よくって多田さん、それじゃこれ無代《ただ》よ、無代《ただ》よ)ってみんなが言うのよ」
それが、言う人には非常に興味ありげであった。そのとき黒い服を、ちゃんと身につけた給仕長らしい男が迎えに出た。そしてわたしは二階に導かれた。
表二階の食堂を通りぬけると、間の室《へや》は二階の給仕娘の控室であるらしかった。
裏階段のあるところで、四、五人が着物を着たり身づくろいをしていた。わたしは其処《そこ》も通りぬけて、奥まった別室へ通された。
手はこびの暖炉《すとうぶ》がはこば
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