男らしいところを贔屓《ひいき》にしていただけに、言うのも愁《つら》かったが、聴く方の腹立ちは火の手が強かった。何分にも奴にむかって芸人の浮気|沙汰《ざた》として許すが、不義の快楽《けらく》は厳しくいましめたほどの亀吉、そうした話を聴くと汚ないものに触れたように怒った。川上の産ませた子を誤魔化《ごまか》して、秘密に里子にやってしまったということをきくと、そんな夫とは縁を断ってしまえと言出した。
川上は浜田屋へ呼びよせられて来てみると、養母と奴とは冷《ひやや》かな凄《すご》い目の色で迎えた。三人が三つ鼎《がなえ》になると奴は不意に、髷《まげ》の根から黒髪をふっつと断って、
「おっかさんに面目なくって、合す顔がありませんから」
と、ぷいと立って去ってしまった。それにはさすがの策士川上も施す術《すべ》もなくて、気を呑《の》まれ、唖然《あぜん》としているばかりであったが、訳を聞くまでもない自分におぼえのあること、うなだれているより他《ほか》はなかった。養母《かめきち》にとりなしを頼もうにも、妻よりも手強《てごわ》い対手《あいて》なので、なまじな事は言出せなかったのであろう。も一度海外へ出て、苦
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