マダム貞奴
長谷川時雨
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)委《くわ》しく
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)亡夫|川上音二郎《かわかみおとじろう》と
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)つん[#「つん」に傍点]と
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一
人一代の伝を委《くわ》しく残そうとすれば誰人《だれ》を伝しても一部の小冊は得られよう。ましてその閲歴は波瀾万丈《はらんばんじょう》、我国新女優の先駆者であり、泰西《たいせい》の劇団にもその名を輝かして来た、マダム貞奴《さだやっこ》を、細かに書いたらばどれほど大部《たいぶ》の人間生活の縮図が見られるであろう。あたしは暇にあかしてそうして見たかった。彼女の日常起居、生れてからの一切を聴《き》いて、それを忠実な自叙伝ふうな書き方にしてゆきたいと願った。
けれどもそれはまた一方には至難な事でもあった。芸術の徒とはいえ、彼女は人気を一番大切にと心がけている女優であり、またあまり過去の一切をあからさまにしたくない現在であるかも知れない。彼女の過去は亡夫|川上音二郎《かわかみおとじろう
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