たしはそのほかに貞奴の外出姿を幾度も見かけた。多くは黒紋附きの羽織をきているが、彼女はやっぱり異国的《エキゾチック》のおつくりの方が遥《はる》かに美しかった。ある時|国府津《こうず》行の一等車に乗ったおりは純白なショールを深々と豊かにかけていたのが顔を引立《ひきたて》て見せた。内幸町《うちさいわいちょう》で見かけた時は腕車《くるま》の膝《ひざ》かけの上まで、長い緑色のを垂《た》らしてかけていたが、それも大層落附いていた。
二度目に新富座《しんとみざ》へ招かれていった時に、俳優としてあけっぱなしの彼女に、はじめて逢ったのであった。そのおりは、新派の喜多村《きたむら》と一座をしていた。喜多村は泉鏡花氏作「滝《たき》の白糸《しらいと》」の、白糸という水芸《みずげい》の太夫《たゆう》になっていた。貞奴はその妹分の優しい、初々《ういうい》しい大丸髷《おおまるまげ》の若いお嫁さんの役で、可憐《かれん》な、本当に素《す》の貞奴の、廿代《はたちだい》を思わせる面差《おもざ》しをしていた。そのおりの中幕《なかまく》に、喜多村が新しい演出ぶりを試みた、たしか『白樺《しらかば》』掲載の、武者小路実篤《むし
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